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【渡辺勇大×IIA】インタビュー後半「なぜ日本人は「ふわっと」生きるのか?世界一のプロが語る、命を賭ける外国人との決定的差」

インタビュー

バドミントン・渡辺勇大選手への
インタビュー後編をお届けします。

前編では、
世界で戦う中で渡辺選手が感じてきた
日本人と海外選手のメンタリティの違い、
そして「命をかける」という言葉の裏にある
覚悟について語っていただきました。

後編では、その視点をさらに広げ、
世界という舞台に身を置くことで、
人の思考や生き方がどのように変わっていくのか
に迫っていきます。

・海外に出て初めて気づいた日本の特殊性
・目的を明確にして命を懸けるということ
・プロとして戦い続けるために欠かせない「人間性」
・「好き」だけでは語れない競技との向き合い方

渡辺選手の言葉は、
どんな姿勢で人生と向き合うのかという問いを、
静かに、しかし確かに投げかけてくれます。

※本記事は前後編構成です。
まだ前編を読まれていない方は、
ぜひあわせてご覧ください。

渡辺 勇大 選手

日本男子バドミントン選手。
混合ダブルス日本代表として、
オリンピック、世界大会に出場。
世界ランキング1位を経験し、
日本バドミントン界を代表する存在として
世界の舞台で戦い続けている。

なぜ日本人は「ふわっと」生きるのか?世界一のプロが語る、命を賭ける外国人との決定的差

 

— 日本人はパスポートの保有率も低く、「6人に1人」と言われています。スポーツ選手に限らず、日本人が世界に出ていくことについて、どう感じられますか。

 

渡辺勇大選手
僕はいろんな国に行った経験から言うと、
皆さんも海外に出たほうがいいと思います。

仕事じゃなくてもいい。
海外旅行でもいいし、
家族とでも、一人でも、友達とでも。

言葉で言うのは簡単ですけど、
僕自身は、海外に出たことで世界がすごく広がりました

コミュニケーションの部分もそうですし、
拙い英語でも「伝えなきゃいけない」場面がたくさんある。

言葉が通じない中でも、ジェスチャーだったり、
翻訳機を使ったりしながら、なんとか伝えようとする
熱意や情熱があれば、人と人はつながれる

それを実感できたのは、大きかったですね。

 

— 日本だと、工夫しなくても分かり合えてしまうところがありますよね。

 

渡辺勇大選手
そうですね。

だからこそ、言葉もどんどん省略されて、
「りょ(了解)」「やばい」だけで済んでしまう。

でも、海外の人とはそれが通じない。

だからこそ「丁寧に伝えよう」という意識が芽生える

最初は、うまく伝わらなくてストレスも感じます。

ただ、海外の選手や海外の人と
コミュニケーションを取る中で、

「今のは伝わったな」とか、
「こういう時はこう言えばいいんだな」とか、
「分からなければ別の言葉で代用しよう」とか、
そうやって工夫できるようになる。

その感覚を持って日本に帰ってくると、
不思議と心に余裕ができて、
コミュニケーションがすごく取りやすくなりました


日本のパスポートって、すごく優秀で、
ビザなしで行ける国も多いし、信用も厚い。

その特権を生かして、
1泊でもいいから外の世界を覗いてみてほしいですね。

 

— 海外で「これはショックだった」という出来事はありますか。

 

渡辺勇大選手
正直、あんまり大きなショックは
受けないタイプかもしれません。

「そういうこともあるよね」と、
割り切れることが多いです。

たとえば、海外を転戦していると、
ロストパッケージはたまにあります。

空港で荷物を待っていても、
自分のスーツケースが出てこない。

でも、ラケットは手持ちにしていますし、
リュックにはシューズとユニフォーム一式を入れていて、
最低限、試合には出られるようにしています。

「こういうこともあるんだな」と思うくらいですね。

死ぬわけじゃないので(笑)

 

— その感覚が、挑戦する強さにつながっている部分もあるのでしょうか。

 

渡辺勇大選手
あると思います。

ただ、最初からこういう考え方だったわけではありません。

社会人になって、「世界を本気で目指す」と決めてから、
小さなことに構っていられなくなりました

人の目だったり、
人の評価だったりを気にしている余裕がなくなる。

人は人、自分は自分

自分がどうなりたいか、どう人生を歩んでいきたいか。

それが結局、自分の目標にしている到達地点に
たどり着く一番の近道だと思っています。

周りが勝っていたら
羨ましい気持ちになることもありますけど、
自分自身はそこを目標にやってきているし、
自分がやってきたことが間違いだとは思っていない。

変な自信かもしれませんけど、
「ここにはたどり着ける」「世界一には行ける」

そういう感覚を持って、ここまでやってきました。

 

— もしかすると、人目が気になったり、人と比べてしまったりする人ほど、夢や目標が小さくなってしまうのかも知れませんね。

 

渡辺勇大選手
小さくてもいいと思うんです。

大事なのは、その目標に対して、
どれだけ本気で向き合えるか。

命をかけられるかどうか

僕自身も大きなビジョンはありますけど、
それを達成するために、
小さな目標をたくさん立てています。

その一つひとつに、
どれだけ本気で向き合えるか、ということですね。

達成できることもあれば、できないこともある。

その時に反省して、同じ目標を追い続けるのか、
少し方向を変えるのかを考える。

でも、そこまでは全力で走ってみる。やってみる

その積み重ねがあるから、
大きなビジョンが見えてくるんだと思います。

 

— 本気度を高めて競技に向き合っている、その一つの表れとして、日本代表を辞退されたという背景もあるのでしょうか。

 

渡辺勇大選手
うーん、
それは少しベクトルの違う話かなと思っています。

僕がバドミントンを続けていくにあたって、
海外を転戦する機会が増えてきて、

飛行機代や宿泊費、
コーチやトレーナーを雇うための人件費など、
どうしても個人で負担しなければならない
部分が大きくなってきました。

一方で、日本代表に所属していると、
代表スポンサーとの関係もあり、
自分が本当にやりたい形での協業が
制限されてしまう
部分もあります。

もちろん、代表としてのサポートが
全くないわけではありませんが、
現状の自分の立場では、
競技を続けていく上でその選択を取るしかなかった、
というのが正直なところです。

 

— スポーツで生きていく厳しさがある中で、若い選手や子どもたちに、どんな姿を見せたいと考えていますか。

 

渡辺勇大選手
僕はプロなので、最後の最後まで
「素晴らしいプロ生活だったな」と思ってもらえるような
競技人生を送りたいと思っています。

その中で、少しでも「この人を目指したいな」
思ってくれる子どもたちやジュニアの選手が
一人でも増えてくれたら、それはすごく嬉しいですね。

僕と同じ道を歩んでほしいわけではありません。

ただ、こういう選択肢もあるんだ、
という一つの例として、
少しでも誰かの心に残ってくれたら、
それで十分だと思っています。

 

— プロの選手として活動を続けていく以上、やはり戦績や成績が求められると思います。その中で、「強いこと」が一番大事なのでしょうか。

 

渡辺勇大選手
僕は、必ずしも
「強いことだけがすべて」だとは思っていません

もちろん前提として、強いことは必要です。

ただ、「プロであること」と
「競技を続けたい」という二点に限って言えば、
好きであれば続けられる部分もあると思っています。

僕自身は、バドミントンが好きなのと同時に、
これでお金を稼ぎたいという気持ちや、
セカンドキャリアがまだ安定していない中で、
選手でいられるうちにできるだけ稼ぎたいという思いも、
心の中にはあります。

ですので、
ちょっと価値観の違いはあるかもしれませんが、
「続けたい」という点だけで言えば、
生活を切り詰めたり、
スポンサーの方を一人ひとり探したりして、
環境を整えられれば、競技は続けられると思っています。

 

— 「好き」ということも、続ける原動力の一つだと思いますが、スポンサーに支援してもらう立場になると、強さだけでなく、人間的に「応援したい」と思ってもらえるかどうかも大切になりますよね。

 

渡辺勇大選手
おっしゃる通りですね。

特に日本の企業に対しては、
情熱だったり、コミュニケーションの力は、
すごく大事
だと感じています。

実際、バドミントンが好きな社長さんや、
競技に理解のある役員の方が多い会社ほど、
実業団チームを持っていたりしますし、
最終的な意思決定は、
やっぱりトップの一言で決まることが多い。

僕はチームに所属しているわけではないので、
スポンサーとの関係は、
個人と個人の話し合いで成り立っています。

だからこそ、競技の結果だけでなく、少なからず
「人としてどう見てもらえるか」も大事になる。

自分の人柄も含めて、「この選手を応援したい」
と思ってもらえる存在でありたい

そのためにも、コミュニケーションを通じて、
人と人とのつながりを深めることは、
これからも大切にしていきたいと思っています。

そうした積み重ねがあって、
結果的にプロとしてスポンサーの方々に支えていただける
環境が少しずつ整ってきているのかな、と感じています。

 

— 若い方たちに向けて、「好き」を継続すること、そして人間性という点についても伺いたいのですが、渡辺選手は、もともとバドミントンが最初から大好きだったわけではない、とお話しされていましたよね。

 

渡辺勇大選手
そうですね。

始めた当初は、
たぶん「好き」で始めたんだと思います。

でも、中学・高校と進むにつれて、
だんだんとしんどい部活になっていきました。

高校ではある程度の成績を残すことができて、
社会人になって実業団に入り、
そこから本気で世界一を目指すようになりました。

さらに自分を追い込むために、
プロになるという選択もしました。

もちろん、今でも
「好き」という気持ちは心の中にあります。

ただ、今の自分にとって
バドミントンは、仕事でもあるので、
「好きだからやる」だけでは成り立たない部分もある

そこは正直、難しいところですね。

それでも、根本にはやっぱり
「好き」があるんだろうなという感覚がある。

引退するときに、
「ああ、バドミントンが好きだったな」と
素直に思えたら、それでいい
かなと思っています。

 

— 自分の「好き」や「やりたいこと」が分からなくなっている人も多いと思います。そういう方に向けて、何かメッセージはありますか。

 

渡辺勇大選手
原点に立ち返るっていうのは、
すごくいいことかもしれないですね。

なんでそれをスタートしたのか。

好きで始めたのかな、とか。
何を目標にしてやってきたのかな、とか。

多分、物事を始めるときって、
何かしら理由や目的があって始めていると思うんです。

それが「好き」じゃなくても、
僕はいい
と思っています。

友達がやっていたから始めた、でもいいし、
お金を稼ぎたいから始めたなら、
ちゃんと稼ぎ切るところまでやればいい。

そうやって原点に立ち返ることで、
「最初、なんで始めたんだっけ?」って
振り返ることができると思うんです。

始めたときと、今とで、
気持ちが同じじゃなくてもいい。

途中でゴールが変わってもいいし、
目的が変わってもいい。

ただ、何かを続けている以上、
そこには必ず目的があると思うので、
その目的をはっきりさせるために原点に立ち返る、
というのは、すごくいいことなんじゃないかなと思います。

 

— 競技から少し離れていた時期もありましたが、あの時間は、原点と向き合う時間でもあったのでしょうか。

 

渡辺勇大選手
難しい時期でしたね。

バドミントンがあまり面白くなくなってしまって、
自分自身が苦しくなりすぎていた時期でした。

長い期間、競技から離れさせてもらいましたけど、
その時間を経て思ったのは、
「やっぱりバドミントンをやりたいな」
という気持ちでした。

結果的に、半ば強制的に競技から離れたことで、
原点に立ち返ることができた。

自分にとっては、すごくいい時間だったと思っています。

 

— 今、少し苦しさを感じている人にとって、立ち止まったり、休んだりすることについては、どう思われますか。

 

渡辺勇大選手
休む時間は、あっていいと思います。
むしろ、あってしかるべきだと。

日本人って、「長時間働く方がいい」とか、
「真面目にコツコツやるのが正しい」みたいな感覚を
どこかで持っている人が多い気がしていて。

自分自身でそう決めつけてしまって、
「働かなきゃ」とか、
「なんとなく今までこうやってきたから」とか、
はっきりした理由がないまま続けていることも、
結構あると思うんです。

そうなると、どうしても
目的とか目標がふわっとしてきてしまう。

でも、それを一度はっきりさせることで、
そこに対して情熱を注げたりしますし、
逆に、「ここまで」って時間を決めて
取り組むこともできるようになる。

長くやりたいなら、長くやればいいと思いますし、
短い期間で区切ってゴールしたい人がいても、
それでいい。

正直、どっちが正しいとかはないと思っています。

 

— 外国人選手が「命をかけている」とおっしゃっていたのは、日本人がどこか「ふわっと」なんとなく取り組んでしまっていることとの対比、という理解で合っていますか。

 

渡辺勇大選手
大きくあります。

やっぱり、目的や目標がはっきりしているかどうか
そこが一番大きいのかもしれません。

命をかけているからこそ、みんな自分なりのスタイルで、
そこに向かってチャレンジしている。

選択肢の取り方も、本当に人それぞれだと思います。

バドミントンの話になってしまいますけど、
戦い方も本当にいろいろあって、
技術で勝てなければパワーで押す。

パワーで勝てなければ、戦略で勝負する。

そうやって、
「どうやったら勝てるか」を本気で考え続けている

「勝利というもの」に対する執念というか、
命のかけ方という部分は、僕自身もまだまだ
見習わなければいけないところだなと思っています。

 

— バドミントンは、フィジカルだけでは語れない部分がとても大きい競技ですよね。

 

渡辺勇大選手
そうですね。

僕みたいに小柄な選手もいれば、
2メートル近い大きな選手もいる。

痩せ型の選手もいれば、筋肉質な選手、
少しぽっちゃりした選手もいる。

そういう多様な選手たちがいる中で、
勝利を掴まなければいけないので、
実は、毎試合、戦い方は違うんです。

相手によっても違いますし、
ダブルスならパートナーによっても違う。

その日のコンディションも違うし、
同じ球は二度と来ない。

だからこそ、
その駆け引きがすごく面白い競技だなと思いますね。

 

— シャトルは時速500kmを超えるとも言われますよね。

 

渡辺勇大選手
そうですね(笑)。

もちろん瞬発力も大事ですけど、
やっぱり「予測」の要素も大きいと思います。

なんとなく、
「あ、こっちに来そうだな」という感覚ですね。

トップ選手でもミスはしますし、
取れない球は取れない。

それでも、どんな体格でも、
どんな特徴を持った選手でも勝てるのが、
バドミントンの面白さ
だと思います。

 

— 海外に出て、いろいろな選手や監督、コーチを見てこられて、「魅力的だな」と感じる人間性には、どんな共通点がありますか。

 

渡辺勇大選手
僕が一番大事にしているのは、
「丁寧であること」ですね。

人と人が話す以上、
伝え方や聞き取り方はすごく大事だと思っています。

同じ言葉、同じ内容でも、
言い方や言い回し一つで、受け取り方は全然変わる。

人間性というのは、
「丁寧さ」にも表れてくるんじゃないかなと思います。

 

— それはプレーにも表れているように感じます。

 

渡辺勇大選手
もし、そう感じてもらえているなら嬉しいですね。

パートナーと話す時もそうですし、
審判と接する時も、僕はすごく意識しています。

国際大会では、同じ審判に何度も当たることもある。

その時に、「審判と戦うのか、仲間にするのか」

強く言えば言うことを聞いてくれる場合もあれば、
丁寧に寄り添うように話した方が伝わることもある。

結局、審判も人なんですよね

フェアに見てはいますけど、人間的な感情を持っている。

だからこそ、プレーの技術だけでなく、
バドミントンをしていない時間も丁寧に過ごす

そこは、すごく大事にしています。

 

— これまで数多くの挑戦を重ねてこられましたが、次の大きな目標は何でしょうか。

 

渡辺勇大選手
ロサンゼルスオリンピックでの金メダルです。

そこを一番大きなビジョンとして、
自分自身で掲げています。

 

— 最後に、これから世界へ出ていく子どもたちに向けて、メッセージをお願いします。

 

渡辺勇大選手
たくさん挑戦してほしいですね。

そして、目的や目標をはっきりさせて、
そこにしっかり熱量を持って取り組んでほしい

それぞれのやり方でいいと思うので、自分なりの形で、
チャレンジを続けていってほしいなと思います。

 

渡辺 勇大 選手 プロフィール

1997年6月13日生まれ。福島県出身。 小学生時代からバドミントンを始め、早くから頭角を現す。高校・大学を通じて全国大会で実績を重ね、日本代表として国際大会へと活躍の場を広げた。 混合ダブルスを主戦場とし、東野有紗選手とのペアで世界トップレベルに定着。スピードと展開力、ネット前での鋭い読みを武器に、国際大会で数々のタイトルを獲得してきた。 2018年から2019年にかけては混合ダブルスで世界ランキング1位に到達。BWFワールドツアーや世界大会で安定した成績を残し、日本バドミントン界を牽引する存在となる。 東京2020オリンピックでは混合ダブルスに出場し、銅メダルを獲得。日本バドミントン史に名を刻む結果を残した。 以降も世界選手権、ワールドツアー、国際大会に継続して出場し、第一線で戦い続けている。 卓越した技術だけでなく、冷静な試合運びとパートナーを活かすプレースタイルに定評があり、ダブルス競技における日本の強さを象徴する選手のひとり。 現在も世界の舞台で進化を続けながら、日本代表として新たな挑戦を重ねている。