【ニールセン北村朋子×IIA】インタビュー前半 日本の常識が覆る。子どもを自立させ、経済も回す「デンマークのすごい教育」3つの秘密
その問いは、
いつの時代も語られてきました。
デンマークは、
世界競争力ランキングで1位。
ビジネス効率性でも6年連続1位。
さらに幸福度ランキングでは、
16年にわたり世界トップ3を維持しています。
経済的な強さと、揺るぎない幸福感。
一見、相反するように見える
「豊かさの両立」を支えているのは、
その土台にある「教育」でした。
今回お話を伺ったのは、
『経済力も幸福度も高くなる
デンマークのすごい教育』の著者であり、
25年にわたり現地で暮らし、
子育てを経験してきた
ニールセン北村朋子さんです。
・「対話」を前提に育まれる、子どもの主体性と納得感
・「好奇心」を潰さない文化が作る、違いを認め合える社会
・「等身大」で生きる大人の背中が、子どもの未来を明るくする
そこにあるのは、
子どもを管理する発想ではなく、
一人の人間として信じる姿勢です。
そして同時に、
「大人はどう在るべきか」
という問いでもあります。
子どもにのびのび育ってほしいと願うなら、
その背中を見せる大人は、
どんな生き方をしているのか。
デンマークの教育から見えてくるのは、
私たち大人の在り方そのものを
問い直す視点でした。

ニールセン北村朋子 さん
デンマーク在住25年。現地で子育てを経験した教育著者。
『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』を通して、「対話」「好奇心」「等身大の大人」という3つの視点から、子どもを一人の人間として信じる教育の在り方を提案している。
日本の常識が覆る。子どもを自立させ、経済も回す「デンマークのすごい教育」3つの秘密

— 北村さんはデンマークにもう25年お住まいで、デンマークでお子さんを育てられたんですよね。実際にデンマークで子どもに教育を受けさせてみて、どのような印象を持たれましたか?
ニールセン北村朋子さん
私は日本で生まれ育って、
日本の教育を受けてきていたので、
そのギャップはとても大きかったですね。
私の両親は昭和初期の世代で、
「親の言うことは絶対」
「親の言葉をきちんと聞きなさい」
という環境でした。
反論でもしようものなら
「何を言っているの」といった空気で、
私自身もそういう中で育ちました。
一方、デンマークでは
基本がすべて「対話」なんです。
— 対話、ですか。
ニールセン北村朋子さん
はい。
関係が対等であることが
ベースになっていて、
「あなたはどう思うの?」
「なぜそう思うの?」
と問いかけながら、
対話を通して、
民主的に物事を決めていきます。
最初の頃は本当に慣れなくて、
「なんて面倒な仕組みなんだろう」
と感じていました。
— 親が決める方が、楽ですものね。
ニールセン北村朋子さん
親が決めて「その通りやりなさい」
と言ってしまえば早いですよね。
でもデンマークでは、
「私はこうしたらいいと思うけど、
あなたは違う考えなのね。
なぜそう思うの?
どうしてそうしたいの?」
といったように、
問いを重ねていくんです。
— うちの子どもはもう大きくなっているのですが、そういうやりとりをしても「分からない」と言うかもしれません。
ニールセン北村朋子さん
デンマークでは本当に小さい頃から
「あなたはどうしたい?」と聞きます。
幼稚園でも「今日は何して遊ぶ?」って
子どもたち自身が決めるんです。
だから、決めることに慣れている。
みんな自分のやりたいことを言う。
日によって違ってもいい。
意見が分かれることも自然だと、
子どもたちは学んでいきます。
— 日本の感覚だと、自己主張がぶつかれば争いになるのでは、と心配してしまいます。
ニールセン北村朋子さん
そういう時は、
「みんなやりたいことが違うんだね。どうしようか」
と子どもに委ねます。
すると、
「グループに分かれよう」「順番にやっていこう」と、
子どもたち自身が解決策を出していきます。
— 幼稚園児には問題解決能力はない、と考えて、解決してあげなければとつい口が出てしまいがちですが、それをしないのですね。
ニールセン北村朋子さん
しないです。
子どもでもちゃんと自分たちで決められますし、
子どもなりに色々考えています。
デンマークの教育方針として、
2歳児でも4歳児でも、
その言葉を正面から受け止めるんです。
2歳なり4歳なりの視点は、
大人が忘れている視点でもある。
その子が精一杯考えた意見を尊重するのが、
民主主義の始まりだと考えられています。
— 日本でも、民主主義国家と言いつつ、つい「子どもだから」と扱ってしまいますね。
ニールセン北村朋子さん
大人の都合で、
そうなっているのではないかと思います。
大人が先に決めた方が、
効率よく進められますから。
「何時までに支度させて」
「何時までに食べさせて」と考えると、
子どもに委ねたらいつまで経っても
決まらないのではと思ってしまう。
でもデンマークでは、
幼稚園でもカリキュラムを過度に詰め込まず、
時間をかけて考える取り組みをしています。
その方が、
ただ「こうしなさい」と言われた時よりも、
子どもが納得して動くんです。
自分が決めた実感があるから、
「じゃあ、どうやってやろう」と
主体的になっていくのだと思います。
— デンマークの教育のポイントを、3つに絞って教えていただけますか?
ニールセン北村朋子さん
1つ目は、
「大人が余計な手出し口出しをしないこと」です。
良かれと思って、
「こうやると失敗するよな」「それじゃダメなのに」と、
つい先回りしてしまいがちですが、
社会に出れば、
いつも親がそばにいるわけでも、
先生が助言できるわけでもない。
だからこそ、子どもが
「こういう時はこうすればいいんだ」と、
自分でできるようになっていく必要がある。
子どもがよく考え、
自分で決められる環境が大事なんです。
そのためには、
余計な手出し口出しをせず
見守る覚悟を持つこと。
大人がやるべきことは、
子どもが考え出した時に、
じっくり考える時間をとって待つことです。
そして、
子どもが一度没頭してやり始めたことを、
とことんやれる環境をできるだけ整える。
大人がゆったり構えて見守れることが、
とても大切だと思います。
— もし自分がそのように接してもらえたら、とても嬉しいだろうなと思いつつも、実際には子どもに対してなかなかそれができない。失敗してほしくない、傷ついてほしくないと、つい先回りしてしまいます。
ニールセン北村朋子さん
私は、デンマークに住んで今年で25年になりますが、
デンマークの人に怒られた記憶がほとんどないんです。
引っ越したばかりの頃は、
暮らしのルールややり方が分からず、
きっとおかしなこともしていたと思います。
それでも、怒られるというより、
むしろ興味を持ってくれるという感覚でした。
そういう点で言うと、
デンマークの教育のポイント2つ目は
「好奇心」だと思っています。
— 例えば、「ゴミ出しを夜にしちゃいけない」というルールがあったとして。夜に出したら日本では怒られますが、なぜ出したの?と興味を持たれる感じでしょうか?
ニールセン北村朋子さん
そうですね。
デンマークでは「どうして今なの?」
「仕事のタイミングで今になったの?」
と聞かれます。
「本当は何曜日の何時と決まっているけれど、
そういう人もいるよね」
と受け止める。
小さな驚きとして受け取ってくれるんです。
「決まり事だから外れた人は直して」
「こっちに合わせなさい」ではなく、
好奇心を持って見てくれる。
「自分とは違うリズムで働いてる人なのかな」とか、
「引っ越してきたばっかりで知らなかったのかな」とか。
「ウェブサイトに載っているよ」「アプリで確認できるよ」
と教えてくれたりもします。
— 好奇心を持ち続けられたらいいなと思いますが、デンマークの人たちを見ていて、なぜ好奇心が育つと思われますか?
ニールセン北村朋子さん
子どもって、好奇心の塊じゃないですか。
何でも触ってみる、なぜと聞く。
その好奇心が、
潰されずに育っていくのがデンマークです。
子どもが質問をすれば、大人は答えます。
「聞いてはいけないこと」
「聞いてはいけないタイミング」
という暗黙の制限がほとんどないんです。
— 日本だと、「お仕事で忙しそうだな」とか「授業中は今は質問してはいけない」といった不文律的な空気がありますよね。
ニールセン北村朋子さん
デンマークでは、
そういう空気はあまりないですね。
授業に関連した質問が出てきたら、
「いい問いだね。今日は時間がないけれど、
次に取り上げてみようか」と、
拒絶せず可能性を残す。
だから子どもは、
「言ってよかった」と感じる。
こういう風に考えている自分の意見も
大事なんだな、と認められる。
それから、
デンマークの人はとてもお節介というか、
やたらと絡みたがる気質があります。
日本の都会だと、余計なやり取りって
鬱陶しいと感じる人もいるかもしれませんが、
デンマークの人はそれを楽しみに
生きているところがあるんです。
「何食べてるの?」
「それ素敵だけどどこで手に入れたの?」
と、知らない人に普通に聞いてきます。
日本の人がデンマークに来て
レストランやカフェで食事をしていると、
「皆さんどちらから来られたんですか?」
「何の話をしてるんですか?」と、
まったく知らない人が話しかけてくることもあります。
それくらい、
好奇心が抑えられない人がたくさんいるんです。
— デンマークでは、子どもが質問したことが「もしかしたら誰かの役に立つかもしれない」と思えるのでしょうね。
ニールセン北村朋子さん
そうですね。
純粋に「子どもの質問には答えたい」
という感覚があるのだと思います。
何かの役に立つかどうか以前に、
「子どもとはそういうもの」「人間とはそういうもの」
という前提がある。
だから、子どもが聞いても大人が聞いても、
わりとストレートに答えてくれますし、
聞かれること自体に喜びを感じているように見えます。
「よくぞ聞いてくれました」という感覚ですね。
— 日本の親である私自身を振り返ると、「そういうものだから」と、せっかくの子どもの「なぜ」を、こちらの都合で引っ込めさせてしまったこともあります。
ニールセン北村朋子さん
もちろん親も忙しいですし、
ずっと質問され続けると大変ではあります。
でも「聞きたいと思う気持ち」や
「不思議だと思う気持ち」を
萎えさせてはいけない、
という意識は大切だと思います。
「今はママが忙しいけれど、面白い質問だから、
ご飯を食べたら一緒に調べようか」
「あとで一緒にやってみよう」といった形で、
好奇心を潰さないようにする。
そういうことを、
多くの大人が意識しているように思います。
若い世代でも、小さい子に質問されれば、
分かる範囲でできるだけ答えたり手伝ったりします。
逆に、お年寄りから若い人が質問されても、
皆さん誠実に答えます。
— 質問をバカにしないのですね。
ニールセン北村朋子さん
はい。
「そういうことをまだ知らない人もいるんだな」
と自然に受け止める。
自分はたまたま知っていただけで、
知らない人がいるのも当然という感覚です。
— デンマークの教育の3つのポイントについて、1つ目は「大人が見守る」、2つ目は「好奇心」でしたが、3つ目のポイントは何でしょうか。
ニールセン北村朋子さん
3つ目は、
「大人が等身大で楽しんで生きていること」です。
デンマークは離婚率が高く、
5割近いと言われます。
人生の浮き沈みは当たり前。
だからこそ、
うまくいかない自分や葛藤している自分を、
子どもに隠しません。
「子どもに心配をかけてはいけない」と
完璧な姿を見せようとするのではなく、
悩んでいることも含めて、ありのままを見せる。
働き方も象徴的です。
人生を楽しむ時間があり、
家族や友人と余暇を過ごす時間もある。
月曜から木曜は16時頃に仕事を終え、金曜は半日。
土日は完全に休みます。
有給は5~6週間あり、完全消化が一般的です。
— それでも経済が回っているんですね。
ニールセン北村朋子さん
逆に、しっかり休むからこそ頭も働きますし、
フレッシュに仕事ができるのだと思います。
デンマークでは、
大人がすごく楽しそうなんです。
子どもや若者も、
「大人になるのも悪くない」と
思っているのではないでしょうか。
疲れ果てている大人ばかりだったら、
「大人になりたくない」「頑張っても行く先はあれか」
と感じてしまう。
そうなるのは残念すぎるので。
— 親は「子どもにのびのび育ってほしい」とよく言いますよね。でも、その見本であるはずの親自身がのびのびしているのか、と問われると、そうではないことも多いですね。
ニールセン北村朋子さん
そうですね。
大人も等身大で、
自分のあるがままに生きられること
が大切だと思います。
無理をして、
子どもに良いところだけを見せようとしない。
ということですね。
— どうすればそれが可能になるのか。その具体的なヒントは、北村さんのご著書『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』の中に丁寧に書かれています。常識が覆されるような、ある意味で「頭をガツンと打たれる」一冊です。けれど、その分、多くの気づきやヒントが詰まっている。ぜひ手に取って読んでいただきたいと思います。
ニールセン北村朋子さん
何回も読み返せるように書いたつもりなので、
ちょっと迷った時に、
読み直してもらえるといいんじゃないかなと思います。
— この本は、どのような思いで書かれたのでしょうか。
ニールセン北村朋子さん
息子が18歳で成人して、
今は週に1回、一緒に食事をしながら
子育ての答え合わせのようなことをしています。
私が作ったり、彼が作ったりするのですが、
作ったり食べたり食後とかにふと、
「あの時どう思っていたの?」
「ママはどういう気持ちだったの?」と
振り返ることがあるんです。
すると、子どもはこんなふうに考えていたのか、
と気づくことが多くて、面白いなと思います。
最初にお話ししたように、
私は日本で生まれ育ち、
「親の言うこと、先生の言うこと、
大人の言うことをよく聞きなさい」と
言われ続けてきました。
そうした価値観の中で育った私にとって、
デンマークの環境はまったく違うものでした。
子どもも意見を言えるし、その意見が通ることもある。
大人が一方的に決めるのではなく、
対話の中でより良い解決策を見つけていく。
正直に言えば、そのやり方は最初、
とても難しかったです。
けれど、振り返ってみると、
非常に納得感があるやり方でしたし、
「この形でよかったね」と親子で思える。
だから、いつかこの経験を本にしたいと、
ぼんやりと考えていました。
そんな時に昨年、
出版社の方から声をかけていただいたんです。
まさに私が書きたいと思っていたテーマで、
「書きませんか」と言ってくださった。
これはご縁だと思いましたし、
ずっと書きたいと思っていたことでもあったので、
ぜひ、とお引き受けしました。
そうして生まれたのがこの本です。
— この本は、どのような方に読んでほしいとお考えですか?
ニールセン北村朋子さん
日本に来るたびに、
親御さんも先生も自治体の方も、
皆さんとても疲れていると感じます。
「本当にこのやり方でいいのだろうか」と、
モヤモヤしている方に読んでほしい。
子育て中の方はもちろん、先生や教育に関わる方、
企業の方だけではなく、中学生、高校生、大学生にも
読んでもらえる内容だと思います。
誰にでも読める形で書いているので、
教育に携わっていたり関心がある
企業さんや団体さんにも読んでもらいたいです。
「自分が当たり前だと思っていたことと、
違う選択肢があるんだな」
と見つけてもらえる本なので、本当にどなたでも、
興味持った方には読んでもらいたいです。
— 日本で「こうだったらいいのに」と思っていることを、実際に実現している国がある。そのこと自体が希望になります。本日は貴重なお話をありがとうございました。
ニールセン北村朋子さん
ありがとうございました。


ニールセン北村朋子さん プロフィール
デンマーク在住25年。現地で子育てを経験しながら、日本とデンマークの教育・社会の違いを見つめ続けてきた。
日本で生まれ育ち、「親の言うことは絶対」という価値観の中で教育を受けた自身の原体験を出発点に、デンマークで当たり前とされる「対話」と「対等な関係性」に強い衝撃を受ける。
幼児期から子どもに意思決定を委ね、意見の違いを対話で調整していく文化。質問を拒絶せず、好奇心を伸ばす大人たちの姿勢。さらに、大人自身が等身大で人生を楽しむことが、子どもや若者の未来像を明るくするという視点——。
そうした気づきをもとに、『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』を執筆。
「子どもをどう育てるか」だけでなく、「大人はどう在るべきか」という問いを、教育の現場と暮らしの実感から投げかけている。