【谷本有香×IIA】インタビュー前半 世界のトップ4000人を見てきた結論。AI時代に生き残る「唯一の処方箋」とは?
AIの進化、グローバル競争の加速、
そして価値観の多様化。
いま私たちは、
「何を正解とするのか」を問い直す時代にいます。
では、これからの時代に必要な力とは何か。
世界のトップリーダーを見続けてきた
フォーブスジャパンWeb編集長・谷本有香さんは、
その答えを「個人の在り方」と「社会の構造」の両面から語ります。
・日本人が世界で戦うために必要な視点
・「いいものを作れば売れる」が通用しなくなった理由
・AI時代に問われる「あなたらしさ」とは何か
・これからの社会に必要なリーダーシップと価値観
その言葉の奥にあるのは、
スキルや戦略ではなく、
「どう生きるか」という問いでした。
便利さや効率が追求される時代だからこそ、
あらためて問われているのは、
「人間は何を大切にして生きるのか」という本質です。
これからの時代を生きるためのヒントを探ります。

谷本有香 さん
フォーブスジャパン Web編集長。
これまで4,000人以上の世界のトップリーダーにインタビューし、グローバル視点で経済・社会・リーダーシップを見続けてきた。
著書や発信を通じて、「美しい経済」や「個人の在り方」といった視点から、これからの時代における価値創造のあり方を提案している。
世界のトップ4000人を見てきた結論。AI時代に生き残る「唯一の処方箋」とは?

— 日本人が世界で活躍するために必要なものについて、どのようにお考えでしょうか。
谷本有香さん
人によって違うとは思うんですが、
まずは「海外に出るという覚悟があるかどうか」、
そこがとても重要だと思います。
例えば、ご自身の事業を日本だけではなく
海外でも広げていこうと思っているのか、
それとも消極的な形で出ていこうと思っているのかで、
全く違ってくる。
積極的に海外に出ていこうという
気持ちがあるかどうかで、
その後の選択肢も行動もまったく変わってくる、
というのは見ていて思うところですね。
— 例えばロサンゼルスで、抹茶が流行っていて「いいですよね」と言う日本人は多いけれど、ビジネスとして始める人は少ない、という話もあります。やはり日本人は積極性に欠けるのでしょうか。
谷本有香さん
そういう側面はあるかもしれませんが、
抹茶に限っても、実はアメリカで頑張っている
日本人の起業家さんはたくさんいるんですよ。
ただ、知られていないだけ、
という気もします。
頑張ってもなかなか認められるところではないですし、
特にアジア人であること、
アメリカ人ではないということで、
たくさんの障壁がある。
英語の問題、コミュニティの問題、
どういう形でそこに根付いていくか、
どう信頼してもらうか、どうやって選んでもらうか。
そういったものが、
第2、第3の壁になってくるので、
それを一つ一つクリアしていくことが
重要だと思っています。
だからこそ、日本人同士で連携したり、
支援機関やJICAのような組織の力も借りながら、
うまくいく形を作っていくことも必要だと思います。
— コミュニティに入っていくうえで、日本人が特につまずきやすいポイントはどこだと感じますか。
谷本有香さん
一番大きいのは、
個別に戦ってしまうことだと思います。
例えばシリコンバレーのコミュニティは
何十年も続いてきたもので、
外から入っていくのは簡単ではありません。
ですから、
日本人のコミュニティをその中でうまく作っていく、
ということも必要なのですが、
日本人を見ていると、
個別に戦っているケースが多いんですよ。
中国の方たちは、
しっかりと固まってコミュニティを作り、
そこに根付くために長年努力してきた。
そういった結束の強さが、
大きな武器になっていると感じます。
一方で、日本人は横のつながりがまだ薄い。
ここは、これから意識的に
変えていける部分だと思います。
— 他にも、何か感じられることはありますか?
谷本有香さん
もう一つは、マーケティングの弱さです。
マーケティングというのは、
ただSNSに出せばいいというものではありません。
どの層に対して、
どんな形で届けて、
どうやって使ってもらうか。
それを考えながらやる必要があります。
若い世代の中には、
そこをうまくやっている方もいますので、
そういった事例を参考にしていくといいと思います。
— 日本人は「自分で全部やらなければいけない」「人を頼ってはいけない」という意識があるのでしょうか。
谷本有香さん
頼ることはしていると思うんです。
ただ、
その頼り方が「最適かどうか」
という問題があります。
もし日本の中に頼る先がなければ、
海外のどの人にスポンサーしてもらうのか、
どの人とつながると一番ショートカットできるのか。
正攻法だけにこだわらず、
そういったルートを探していく努力も必要だと思います。
その点では、韓国の方々は
とても上手にやられている印象があります。
マーケティングやブランディングを駆使しながら、
どういう形でマーケットに入っていくのかを
考えるといいかもしれませんね。
— 韓国の方はガッツがすごいとも言われますが、それだけではなくマーケティング力も強いということでしょうか。
谷本有香さん
ガッツとマーケティングは、
ある意味でつながっていると思います。
今まで入ったことのないマーケットに
どう入っていくか、という話ですから。
それも含めて
「気概がどのくらいあるか」
ということなのかもしれません。
— それは「自分のやっていることにどれだけ誇りを持てるか」、ということでもあるのでしょうか。
谷本有香さん
誇りは、みなさん持っていると思うんですよ。
誇りがあるからこそ続けられる。
ただ、「これはすごいんです」と言ったとして、
「じゃあ買います」と言ってくれる人が
世界にどれだけいるか、という話になるわけです。
その地域の人に伝わる言葉で、
伝わる文脈で、どう見せるか。どう伝えるか。
そして、自分自身が
どうやって信頼関係を築いているのか。
そういったすべての要素が揃って、
初めてお金を払ってもらえる。
いいものを作れば売れる、という時代ではないので。
伝え方や関係性まで含めて、
価値を届ける努力ができているかどうか、
ではないでしょうか。
— 日本のモノづくりや職人の技は、これからどう活かしていけばいいのでしょうか。
谷本有香さん
日本は、いいものを作っていれば
認められる時代がありましたし、
機能性が高くてコストパフォーマンスが良い
商品やサービスを作ることで成長してきました。
ただ、それは昭和の初期の話で、
今は、かつて新興国と言われていた国々も、
同じようなクオリティや機能性を持つものを
作れるようになっている。
そうなると、「いいものを作っている」という
自負だけでやっていけるのか、
という問いが出てきます。
これからは、
今の時代にあった、他国と渡り合えるような戦い方を
真剣に考えていかなければいけない時代になっています。
もし、自分たちでそこまでできないのであれば、
できる方に発注する、任せる
ということも必要なんだと思います。
特に文化に関わるような業界は、
本当に素晴らしいものを持っていると思いますし、
私が所属しているフォーブスジャパンでも、
そういった分野を積極的に応援しています。
ただ、まだまだ伸びしろがある。
言い換えれば、
応援しがいのある大きなマーケットがあるな、
というのはとても感じているところです。
— 日本の文化は評価されている一方で、マーケティングの弱さによって広がりきっていない部分もある、ということですね。実際にインタビューの現場で、日本と海外のリーダーの違いを感じた瞬間はありましたか。
谷本有香さん
一番分かりやすいのは、NG質問の話です。
海外の企業にインタビューを依頼すると、
広報を通すことはありますが、
実際の生放送の中ではNG質問がほとんどありません。
どんな意地悪な質問でも、
それに答えることがプロフェッショナリズムだと
考えているからです。
いわゆるサラリーマン社長の方であっても、
海外の方は非常にプロフェッショナルだと感じます。
一方、日本の企業の場合は
広報が事前にNGを出してくることが多く、
それを破ると問題になることもある。
もちろん、
日本の方がプロフェッショナルではない
という話ではなく、権限の問題だと思っています。
ただ、結果として、
株主や視聴者が本当に聞きたいことが
聞けなくなってしまう。
どこかで見たような質問に、
当たり障りのない答えが返ってくる。
そのやり取りに、
どれだけの価値があるでしょうか。
みんなが聞きたいのに聞けないような問いに、
しっかり答える姿勢を示す。
そういったプロフェッショナリズムや
リーダーシップが重要なのではないかと思います。
ただ、それが発揮される前に、
周りの人間がそれを止めてしまっているのではないか、
というのは、長年感じてきたことでもありますね。
— その違いは、安全や安心を重視する文化と関係しているのでしょうか。
谷本有香さん
大きく関係していると思います。
リスクを回避する文化の影響は、やはり大きい。
ただ、安全なことしか言わない企業に、
どれだけ魅力を感じるでしょうか。
人は、夢があって挑戦している企業を応援したい。
そういった企業に入りたい、
関わりたいと思うものです。
安全なことだけを言い続けることは、
結果的に損です。
本来であれば社長という立場の方は、
そうしたリスクを取れる権限を
持っているはずなんですよね。
株主の方々からさまざまな意見が
出ることもあると思います。
それでも、その中で
リーダーシップを発揮して意思決定をしていく。
そういった姿勢こそが、
本来のリーダーシップなのではないか
という気がしています。
そのためには、
リーダーが役割を果たせる環境づくりも必要ですし、
リーダー自身には、外からの声を受け止めながらも
乗り越えていけるだけの強さも求められる。
そういったリーダーシップが、日本には
これからより一層必要になってくるのではないか
と感じていますね。
— では、そういったリーダーシップは、どのようにすれば生まれてくるのでしょうか。
谷本有香さん
難しい問いですね。
ただ、叩かれてもいいからやっていきたい、
という方は実はたくさん出てきています。
そういった方たちを応援していくこと。
同時に、リスクを取らずに、
自分の任期の間だけ安定していればいい
というようなリーダーには、
株主として「NO」を突きつけていく。
場合によっては、
そういったリーダーには退場してもらうという
判断も必要です。
新しい時代に対応できるリーダーを、
企業の内側からも育て応援していく。
そういう流れを作ることが重要です。
いずれにしても、グローバル競争の中では、
海外の投資家はそういう企業を選びませんから、
結果的にマーケットから退場させられていく、
ということになると思います。
— 今のお話を聞くと、一人ひとりにもできることがあるように感じますね。
谷本有香さん
ありますね。
ただ、自分自身が沈みかけている船に
乗っているということに気づかないまま、
それを良しとしてしまっている、
というケースも多い。
それは自己責任でもありますし、
同時に、ある種の全体責任でもあると思っています。
私自身は経営者ではないので、
評論家的に見られることもあるかもしれない。
だからこそ、良い企業を応援し、
必要であれば警鐘を鳴らすという役割を
果たしていきたいと思っています。
— 素晴らしいリーダーほど、一般の人の意見にも耳を傾ける印象があります。
谷本有香さん
そうですね。
私が所属しているフォーブスジャパンは、
批判をするメディアではなく、
ポジティブジャーナリズムを掲げています。
頑張っている企業や、
ロールモデルとなる企業に光を当てて、
そこに人が集まるような
メディアの在り方を示していきたい。
そういった形で応援していく立場を
貫いていきたいと思っています。
— 若い方たちが、組織の中で「生意気だ」と言われるような場面もあると思います。そういった場合は、どのように振る舞うのが良いのでしょうか。
谷本有香さん
「イエス」と言うのは簡単なんですよね。
でも、生意気だと思われて嫌われることもある。
どちらも現実としてあって、
うまく立ち振る舞う必要があります。
「出る杭は打たれないくらい出ろ」
と言うことは簡単ですが、
実際にそういう部下や後輩を、
周りからの圧力の中で守れるかというと、
多くの場合は難しい。
いざとなると、周りと同じように批判する側に
回ってしまうこともあるのではないでしょうか。
そう考えると、
私は「人気者になること」が必要だと思っています。
嫌われるくらい突き抜けてやれている天才は、
実はそれほど多くない。
仮にいたとしても、
一人の天才ができることには限界があります。
それよりも、「この人のためなら動きたい」と
思えるような関係性を作れる人の方が、
大きな組織を動かすことができる。
自分ができないことを得意な人に頼って、
多くの方たちがその人を支える構造を作る方が、
結果として大きな力になります。
実際にトップオブトップと言われる人たちを見ていても、
そういうタイプの方が多い。
だから私は、
生意気を押し通すことが最善だとは思っていません。
それよりも、
「この子のためならやってあげようか」
「仕事はできないけど、チームに入れてあげようか」
と思ってもらえる存在になる方が、
今の時代には合っている。
自分というものを強く押し通していく、
いわゆる「我を通す」という在り方は、
今の時代にはあまり合っていない。
特にAIの時代には、なおさらそう感じています。
— 「人気者になること」や「応援される関係性」が重要だというお話でしたが、それはAI時代における個人の在り方にもつながってくるのでしょうか。
谷本有香さん
もちろん、生意気を言うことで可愛がられたり、
自分の強みを活かせる場面もあります。
ただ、それを常に全方位でやるのではなくて、
相手や状況に応じて使い分けていくことが大事です。
これからのAI時代においては、
「あなたらしさ」をどう活かすかが重要になる。
でも、それは単純に
「嫌われてもいいから自分を貫く」
ということではありません。
まず、どうすれば一番自分の強みを活かせるのかを、
自分自身で一度しっかり整理する。
その上で、それを企業や社会の中でどう活かすのか、
自分と社会との接点をどう設計するのかを考える。
いわば自分自身のUI/UXを設計する視点。
これが、これからの時代には
重要になってくるんじゃないかなと感じています。
— 谷本さんはこれまで4,000人以上の世界のトップリーダーにインタビューをされていますが、相手から信頼を得るために意識されていることはありますか。
谷本有香さん
好かれたいという気持ちは全然なくて。
ただ、目の前の相手からいかに
最高の情報を引き出すかを考えたときに、
嫌われない方がいいのは確かです。
「感じが悪い」と思う相手には、
本音を話さないものですから。
だからこそ、
その場を一番いい状態にするための
環境設定を徹底してきました。
自分にできることを100%やり続けた結果として、
スクープを取れたり、
「次も彼女にインタビューしてほしい」と
言っていただけたりしたのだと思います。
情報を必要としている人に、より良い形で届けるため、
これまで引き出されてこなかった言葉を引き出すための、
最適解を追い続けてきた、という感覚です。
だから、「自分が好かれるかどうか」は、
優先順位として二の次、三の次でした。
— 「相手に好かれる」というより、「その場にとって最適な存在になる」ということですね。それが結果として、リーダーにとっても価値になるのでしょうか。
谷本有香さん
そうですね。
彼らにとっても、
それまで引き出されてこなかった情報や、
新しい見方が提示されることで、
企業価値が上がる可能性もありますし、
伝えたいメッセージが広く届くことにもつながります。
その価値を広げていく”媒介”として、
どうすればより良い形にできるか。
それをお互いの共同作業としてやってきた、
という感覚があります。
その結果として、
良いものが引き出されてきた、
ということだと思います。
— これまで金融や経済、ビジネスの分野で走り続けてこられた背景には、明確なビジョンがあったのでしょうか。それとも、流れの中で進んでこられたのでしょうか。
谷本有香さん
両方あると思います。
一番大きかったのは、
最初の会社で、大企業が倒産するという
非常に珍しい経験をしたことでしょうか。
そのときに、
悲しい思いや辛い思いをする人をできるだけ減らしたい、
そういう社会にしていかなければいけない、
という思いがすごく強くなりました。
その後、金融や経済の分野で仕事をしていく中で、
「経済」というのは、人々の暮らしを豊かにするものだ
と実感するようになりました。
つまり、人の幸せや豊かさに、
非常に大きく関わっている。
だとすれば、
その豊かさを少しでも広げ、深めていきたい。
自分にできることは限られているかもしれないけれど、
少しでもベターな世界にしていきたい。
そういう思いは、ずっと根底にありますね。
— 谷本さんが「美しい経済」という言葉を使われていたのを拝見して、とても印象に残っています。その言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか。
谷本有香さん
常にアップデートされているので、
そのときはそう信じていた言葉だと思います。
ただ、考え方の根本は変わっていない。
日本の経済をこれからどうしていくかを考えたとき、
「強い経済」やGDPを何%伸ばすといった
指標だけでは語れない部分があります。
もちろん、
3%成長や10%成長ができたら理想的ではありますが、
人口が減少していく日本において、
現実的にはかなり難しい。
そうなると、
「パイを大きくすること」だけが正解ではない。
日本には、日本なりの経済の作り方があるはずです。
そのときに日本の強みとして浮かぶのが、
職人の技、精緻に作りこむ技術、
最後まで丁寧にサービスを届ける姿勢です。
そういったものが、日本の経済の根幹にある。
だとすると、
「強い経済」や「発展する経済」といった、
これまで使われてきた言葉では、
合わないのではないかと感じています。
— 従来の「成長」や「強さ」といった指標だけでは、日本の経済は捉えきれないということですね。
谷本有香さん
日本の経済を表す言葉として
何がふさわしいのかと考えたときに、
「美しい」という感覚がしっくりきました。
日本人は、
昔から「美意識」を大切にしてきたと思うんです。
より良いものを作ろうとする姿勢や、
お客様に喜んでもらおうとする心、
社会や国のために貢献しようとする価値観。
そういったものは、すべて美意識の表れです。
その美意識を活かした経済を作っていくことが、
日本らしい、他のどの国にもない
経済の形につながっていく。
そういう意味で、
「美しい経済」という言葉を使っていました。
— 日本らしい経済をどう表現するか。その一つの答えが「美しい経済」だったということですね。では、そのように自分の言葉で定義していく力は、どのように培われてきたのでしょうか。
谷本有香さん
テレビに出ていた頃も、今の活字の世界でも、
言葉を使って伝える仕事をしています。
そこで強く感じるのは、
言葉というのは一見普遍的に見えて、
実はすごく変わっていくものだということです。
時代性を強く帯びるものなんですよね。
例えば「イノベーション」という言葉。
「イノベーションを起こそう!」と言われても、
日本でなかなかイノベーションが生まれないのは、
言葉を私たちが十分に咀嚼できていないからではないか、
という気もしています。
「イノベーション」という言葉が広く使われ始めたのも、
もう10年以上前の話ですよね。
だとすると、今の時代に合った言葉が、
きっと別にあるはずなんです。
「今の時代に合う言葉は何か」を常に考えて、
翻訳し直していく。
それが編集者の役割だと思っています。
一見変わっていないように見えることでも、
実は時代とともに変わっている。
それを、今の視点で、自分の視点で捉え直す。
その先にあるものが言葉になり、
その言葉がまた新しい現象を生んでいく。
なので、「考える」というよりは、
「見る癖をつける」というか。
そして、それを自分の言葉に
落とし込む癖をつけるようにしていますね。
— 言葉を定義していく力についてお話がありましたが、その前提となる「情報の取り方」についても伺いたいです。日本には世界の情報が入りにくいとも言われますが、その点はどのように考えていますか。
谷本有香さん
結局は、英語でどれだけ見られるか、
というところだと思います。
日本の情報だけを見ていると、
どうしても偏ってしまう。
だからこそ、
なるべく英語の文献を見るようにしたり、
今は翻訳ツールも充実しているので、
そういったものを活用していくことは必要だと思います。
ただ、以前と比べてハードルはかなり下がっています。
「情報がない」というよりは、
「どれだけ取りにいくか」という意識の問題に近い。
限られた情報しかない、というわけではなくて、
「もっと知りたい」
「他の人はどう考えているんだろう」
「この情報は本当に正しいのか」
といった視点を持てるかどうか。
そういった、疑う力や情報リテラシーは、
これからさらに重要になってくると思います。
— 疑う力、というのは大切ですね。では、これからの若い世代に必要な力として、他にどのようなものを感じていらっしゃいますか。
谷本有香さん
やはりこれからの時代、
多くのことがAIに代替されていく、
というのは強く感じています。
だからこそ、
自分に何ができるのかを問い続けることが大切です。
例えば、
「ゲームが好きだけれど、
それは就職には役に立たないのではないか」
といった相談を受けることがあるのですが、
私はむしろ強みだと思うんです。
ゲームの世界から学べることは多い。
なぜそれが好きなのか、
なぜ数ある中でそれを選んでいるのか。
その問いの中に、
ヒントがたくさん詰まっています。
自分の世界から見える景色、
自分なりの世界観を作っていくこと。
それが、
これからの時代を生き残るための大きな鍵になります。
— AIは本当に優秀で、例えばナレーション一つとっても、とても上手にこなしてしまいますよね。そうすると、「自分の仕事がなくなるのではないか」と感じる瞬間もあります。ただ、その中で、自分とAIの違いはどこにあるのかを探ること自体が、とても面白いとも感じています。
谷本有香さん
結局は、
自分が楽しいと思えることにどれだけ向き合えるか、
ということだと思います。
AIについて、
ひとつ誤解されているなと感じる点があります。
「AIを使って人間がどう楽になるか」
という視点で語られることが多い、という点です。
もちろん、それ自体は間違っていません。
やりたくない作業、やらなくていい作業を
テクノロジーに任せていく。
それは正しい使い方だと思います。
ただ、それだけだと少し古い。
いわゆるDX的な発想にとどまってしまっています。
そもそも、
人間は「楽をすれば楽しくなるのか」
という問いがあると思うんです。
実際には、そうではなくて、むしろ、
大変なことや、苦労することの中に楽しさがある。
そう考えると、
「楽をすること」だけを目的にAIやDXを使うのは、
少しもったいない気がします。
— 「楽になること」と「楽しいこと」は必ずしも一致しない、ということですね。では、AI時代においては、どのようにテクノロジーと向き合っていくことが重要になるのでしょうか。
谷本有香さん
これからは、AIやテクノロジーを
「人間が楽しむため」に使っていくことが
重要なのではないかと思っています。
そのためには、
あえて人間がやるべき部分を残す、
という発想も必要になる。
そして、人間にとって楽しくない部分、
価値を感じない部分だけをAIに任せていく。
では、どこが「楽しい」と感じる領域なのか。
それは人間にしか分からないことです。
その線引きをする、
アルゴリズムを作っていくこと自体が、
人間にしかできない役割です。
少し前に、
クラウドサービスを提供する企業のCEOと対談したとき、
とても印象的な言葉をいただきました。
AI時代には、
これまでCIOと呼ばれたようなテクノロジーの責任者が、
CHROのような役割に変わっていくのではないか、と。
つまり、テクノロジーをどう使うかではなく、
「人間がどうモチベーションを持つか」
「どうすれば楽しいと感じられるか」
を設計していく役割が重要になる。
私も、まったくその通りだと感じました。
そう考えると、
これからの時代に重要なのは、
「自分が何を楽しいと感じるか」を
突き詰めていくことだと思います。
たとえ、「消しゴムのかすを溜める」みたいな、
一見すると意味がなさそうなことであってもいい。
その行為の中に、
自分にとっての心地よさや安定があるのであれば、
それはとても重要なヒントになります。
「なぜそれが心地いいのか」
「なぜそれが楽しいのか」
を掘り下げていく。
そこにこそ、これからの時代において、
自分がどう生きていくかのヒントがある。
AIが多くのことを代替していく時代だからこそ、
人間に残されるのは
「何を楽しいと感じるか」という感覚そのもの。
それを突き詰めていくことが、
生き残るための処方箋なのではないかと思います。
— ただ楽しむだけではなく、「突き詰めること」が大切だということですね。
谷本有香さん
これまでの時代は、
外側から定義された「あなたはこういう人です」
という枠組みで自分を捉えることが多かった。
就職活動の性格診断や評価制度などが、その典型です。
ただ、それはあくまで外側から見た自分であって、
本質的な自分とは少し違う可能性がある。
これからは、
自分の内側にある感情や反応にどれだけ敏感になれるか、
が問われます。
楽しいこと、悲しいこと、
ワクワクすること、萎えちゃうこと。
そういうものは、自分の中でしか整理できない。
だからこそ、「自分が心動く瞬間」を
つぶさに観察するということが大事です。
日本の教育は、「みんなと同じように感じること」を
前提にしている部分がある。
でも、本当は、周りが笑っている中で
自分だけ号泣していてもいい。
そのときに、
「なぜ自分は号泣するという感情に突き動かされたのか」
を深く見ていくこと。
この部分にこそ、その人らしさがあると思うんです。
人が何と言おうと、
自分自身の心の動きに敏感になること。
それが、
これからの時代にもっとも大切なことだと思います。
— これからはより一人ひとりの個性が問われていきますね。親世代としても、子どもたちの可能性をどう広げていくかが重要になりそうです。
谷本有香さん
親の価値観で子どもを測ることは、
やはり避けるべきだと思います。
これまで良いとされてきたことだけを褒めるのではなく、
一見すると意味がなさそうに見えることでも、
その子が一生懸命取り組んでいるのであれば、
そこを認めて、褒める。
今の時代、大人がそういう関わり方に
変えていく必要があると思います。
— 日本と世界のトップを見てこられた谷本さんがおっしゃると、やはり説得力がありますね。
谷本有香さん
自分自身が、例えば部下に対して
同じようにできているかと言われると、
まだまだできていない部分もあります。
ただ、時代は確実に変わってきている。
これからは、一人ひとりの力をどう引き出すかが、
より重要になってくると思います。
日本はリソースが限られているからこそ、
個人の良さをどう活かすかが、
これまで以上に大事になってくる。
上司としても、親としても、先生としても、
個々の良さに目を向けて、
それをきちんと評価していくことが重要だと思います。
— さまざまなお話を伺ってきましたが、谷本さんご自身は、どのような未来を思い描いていらっしゃいますか。個人の未来、日本や世界の未来についてもお聞かせください。
谷本有香さん
個人としては、
一人ひとりがその人らしく生きられる世界に
していきたいなと思っています。
今、企業では
「人的資本経営」という言葉が非常に重要になっていて、
特に上場企業はそれを開示していかなければいけない
時代になっています。
ただ、経営者からは、
「人を活かす経営」と言われても、
具体的にどうすればいいのか分からない、
という声もよく聞きます。
「とりあえず女性を活用しよう」
といった取り組みもありますが、
本質はそこではない。
100人いれば、
100通りの考え方があって、
100通りの生き方がある。
その多様さをどう整理し、
どう束ね、どう活かしていくか。
それこそが、
その会社の価値になっていくと思います。
— 「ありがとう」が形になったものがお金ですので、理想論と言われることもあるかもしれませんが、そういう形になっていくと素晴らしいですよね。
谷本有香さん
マイケル・ポーターが言っているような
CSV(共通価値の創造)の考え方にも近いのですが、
社会性と経済性、その両輪がちゃんと回るという状態。
これまでは「難しい」と言われてきたけれど、
今は実際にそれを体現している企業も出てきています。
もともと日本は、
渋沢栄一の時代から三方よしの精神を持つ国です。
それを、今の時代に合わせた形で、
どうやって利益や売上にもつなげていくのか。
そこが、これからの経営者に問われています。
— 最後に、これからの時代を担っていく若い方々へ、メッセージをお願いします。
谷本有香さん
若い方に限らず、
チャレンジをしていってほしいなと思います。
ただ、そのチャレンジは、
「苦しいことをやる」ということではありません。
新しいことをやってみるとか、
自分のワクワクや好奇心に従って動いてみること。
それも十分なチャレンジです。
もう一つ伝えたいのは、
人間の思考だったり、人が生み出す価値って、
その人がどれだけ動いたか、どれだけ時間を使ったかに、
すごく比例していると思うんです。
海外に行ったり、出会う人の数が増えたりすることで、
いろんなインスピレーションを受けて、
そこからまた自分が何かを生み出せるようになる。
自分の半径5メートルの中だけにとどまるのではなくて、
できるだけ世界を見たり、いろんな人に会いに行ったり、
話を聞いたりしてほしい。
そうやって、
自分の中の時間や距離を広げていくことで、
自分のフィルターを通して、
社会に対していろんな働きかけが
できるようになっていくと思います。
ぜひ自分の好奇心やワクワクに従って、
動いてみてほしいなと思います。
— ありがとうございました。
谷本有香さん
ありがとうございました。


谷本有香さん プロフィール
フォーブスジャパン Web編集長。
これまで4,000人以上の世界のトップリーダーにインタビューし、経済・社会・リーダーシップの最前線を見続けてきた。
ニュースキャスターとしてのキャリアを経て、国内外の経営者や起業家と対話を重ねる中で、「何が価値を生み出すのか」「人は何に共感し、動くのか」という問いを探求し続けている。
日本と世界のリーダーを見比べる中で感じてきたのは、単なる経済成長や合理性だけでは測れない価値の存在だった。
職人の技や丁寧なサービス、美意識に根ざしたものづくり——そうした日本独自の強みを再定義する言葉として提唱しているのが「美しい経済」という概念である。
また、AI時代における個人の在り方についても、「自分らしさ」を単なる自己主張ではなく、社会との接点の中で設計していく視点の重要性を説く。
情報があふれ、正解が揺らぐ時代だからこそ、
「何を信じ、どう生きるか」
その問いを、自身の取材と実体験をもとに発信し続けている。