【古橋亨梧×IIA】インタビュー前半 「迷う時間があるなら、一歩踏み出せ」英語ゼロで飛び込んだ海外で崩された日本の常識と、戦うためのエゴ
「迷っている時間があるなら、一歩踏み出す。」
シンプルなこの言葉の裏には、
これまで積み上げてきた“前提”が崩れる体験があります。
海外に出た古橋選手が直面したのは、
迷うことすら許されないスピードの世界でした。
打つか、打たないか。
行くか、行かないか。
その一瞬で、結果が決まる。
そこでは、
「正解を選ぶ力」よりも、
「決め切る力」が求められていました。
今回のインタビューでは、
・海外で“常識が崩れた”と感じた理由
・日本人が持つ「迷い」と判断の遅れの正体
・失敗を恐れず“決め切る”という思考
・「感謝」と「負けたくない気持ち」の関係
・一歩踏み出すことで変わる景色と、その意味
について伺いました。
環境が変わると、
見える景色が変わるのではなく、
“見ている自分”が変わります。
その変化は、
一歩踏み出した人にしか訪れません。

古橋亨梧 選手
サッカー日本代表。
バーミンガム・シティFC所属のフォワード。
ヴィッセル神戸での活躍を経て海外へ移籍、現在はイングランドでプレーしている。
海外での経験を通じて、「迷わず決め切る力」や価値観の違いと向き合いながら、世界の舞台で挑戦を続けている。
「迷う時間があるなら、一歩踏み出せ」英語ゼロで飛び込んだ海外で崩された日本の常識と、戦うためのエゴ

— 現在イングランドでプレーされていますが、海外に出るタイミングはどのように決められたのでしょうか。
古橋選手
オファーが来たタイミングで、
いろいろな話し合いを経て決まった形です。
海外の選手と一緒にプレーする中で、
すごく刺激を受けることが多くて。
1日でも早くその選手たちが活躍している舞台に立ちたい
という思いが強くなりました。
プロに入って2年目、3年目くらいの頃、
ちょうど神戸に移籍したタイミングでしたね。
— その「刺激」というのは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。
古橋選手
練習ひとつを取っても、
技術の差を感じました。
日本人選手にも上手い選手はたくさんいる。
でもその中でも、
何か輝いて見えるというか。
パスひとつにしても、
ボールが天然芝を走っていく。
その1本だけで魅了される感覚があって、
「世界ってこんなに広いんだ」
と強く感じました。
— その「輝いて見える」という感覚は、どういうものなのでしょうか。テレビ越しでは分かりにくい部分でもあると思うのですが。
古橋選手
強さの中にあるメッセージ、
という感じかもしれないですね。
優しさというより、
強さの中にあるメッセージです。
— 海外の選手は体も大きく、アグレッシブなプレーのイメージがありますが、その中に「優しさ」も感じられるのでしょうか。
古橋選手
イニエスタ選手のようなトップレベルの選手と
コンビを組めたことがあって。
その選手から来るパスは
速くて強いボールなんですけど、
「シュートを打ってこい」
というメッセージが
込められているように感じるんです。
そういう意味での優しさというか、
メッセージ性を感じる場面はありました。
— 海外に出たのはオファーがあったタイミングとのことですが、最初のオファーですぐに決断されたのでしょうか。
古橋選手
細かいことは話せないんですけど、
もともと
「いつか行ってみたい」
という気持ちがあったので、
いくつかオファーをいただく中で、
いいタイミングで行けたと思っています。
— 英語はほとんど話せない状態で行かれたと伺いましたが、不安や恐怖はありませんでしたか。
古橋選手
正直、最初はすごく怖かったです。
でも、
挑戦をやめるという選択肢はなかったし、
迷いもなかった。
迷っている時間があるなら、
一歩踏み出す方が大事だと思います。
— 英語ができない状態から、どのようにチームや生活に馴染んでいかれたのでしょうか。
古橋選手
ありがたいことに、
最初から通訳をつけてもらえたので、
その点はクラブにすごく感謝しています。
ただ、選手同士のコミュニケーションは
自分でやるしかないので、
そこは自分で向き合いました。
最初に行ったのがスコットランドだったので、
なまりが強くて大変な部分もありましたが、
相手もちゃんと分かるように話してくれたり、
向き合ってくれたりした。
海外に出て、
その環境で揉まれてみないと分からなかったことだし、
「行く」と決断したからこそ得られた経験だと思います。
— 今振り返ってみて、「英語ができない」という理由は、海外に出ない理由にはならないと感じますか。
古橋選手
どうですかね。
僕も未だに英語は話せないので、
苦手意識はあります。
ただ、思っている以上に、
海外の人たちは受け入れてくれると感じています。
もちろん否定的な人もいるかもしれない。
でも、それ以上に受け入れてくれる人はたくさんいる。
だから、
勇気を振り絞って飛び込んでみるのも
いいんじゃないかなと思います。
— 古橋選手はファンから非常に愛されている印象があります。何か意識されていることはありますか。
古橋選手
本当にありがたいことだと思っています。
特別に何かをしているというより、
日頃から感謝の気持ちは忘れないようにしています。
今こうしてサッカーができているのも、
スタジアムに足を運んでくれる人や、
グラウンドを整備してくれる人がいるからです。
さらに遡れば、
サッカーというスポーツ自体も、
最初に始めた人がいて、
歴史が積み重なってきたからこそ今がある。
そう考えると、
サッカーができていることは決して当たり前ではない。
これまでの歴史や、親、チームメイト、
すべての出会いや経験があって、
今こうして好きなことを仕事にできている。
だからこそ、
感謝の気持ちは忘れてはいけないと思っています。
— チームメイトやファンへの感謝はイメージしやすいですが、「歴史」にまで感謝を向けている点が印象的です。それはご自身の中で自然に生まれた感覚なのでしょうか。
古橋選手
追求し始めたら、きりがないとは思うんですけど。
大切なことだと強く感じるようになったのは、
プロになってからです。
勝っている時も、負けている時も、
ファンの方々が必死に応援してくれる。
プロ1年目でその姿を見て、
「これは当たり前じゃない」
と強く感じました。
— 日々の環境はどうしても当たり前になりがちですが、その感謝の気持ちは、意識して思い返すようにされているのでしょうか。
古橋選手
試合前は特に、
こういう素晴らしい雰囲気を
作ってくれている人たちに対して、
自然と感謝の気持ちが湧いてきます。
スタメンで出る日もあれば、
出られない日や途中出場の日もある。
それでも
「試合に出られたこと自体に感謝」しています。
これまで苦しい時期を経験してきたからこそ、
そう考えられるようになったのかなと思います。
— 「負けたくない」という競争心と、「感謝」の気持ち。この2つのうち、古橋選手をより強くしているのはどちらだと感じますか。
古橋選手
やっぱり
「負けたくない」という気持ちかもしれないですね。
パスひとつ、シュートひとつでも、
一緒にプレーしている選手たちに負けたくない。
綺麗なパスが通った時はすごく嬉しいですし、
英語でのコミュニケーションでも、
自分の言いたいことが相手に伝わると嬉しい。
そういう意味でも、
負けたくないという気持ちは強いと思います。
— 海外に出られて、もう4〜5年ほどになりますよね。これまでにもいくつか人生の転機があったと思いますが、海外に行かれて「人生が変わった」と感じることはありますか。
古橋選手
海外に出てみて、
常識が崩れた感覚はあります。
海外の選手は判断のスピードが速く、
一瞬の迷いもない。
もちろん失敗することもあるけど、
それを恐れない。
「失敗しても次でやればいい」
というメンタリティがあるんです。
そういうメンタリティは、
すごく学ぶことが多いと感じました。
— 日本にも素晴らしい選手はたくさんいると思いますが、その「判断の速さ」は具体的にどのような違いなのでしょうか。
古橋選手
フォワードの視点で話すと、
ビッグチャンスの場面で
「右に打つか、左に打つか」と
考えてしまう時間があります。
でも海外の選手は、
迷わず振り切る。
本当にちょっとした違いですが、
その一瞬で打ち切る。
相手に囲まれて、足を出されると分かっていても、
それを気にせず振り抜く。
当たって入ればラッキーですし、
跳ね返ってカウンターを受けることもあるかもしれない。
でも、そういう場面は
一瞬の判断の連続です。
その一瞬の決断力は、
海外に出てよりすごいと感じました。
— 古橋選手ご自身も、その判断の速さを目指していると思いますが、海外の選手と比べて「遅れてしまう」と感じる理由はどこにあるのでしょうか。
古橋選手
迷ってしまうからかもしれないですね。
ビッグチャンスの場面で、
右に行くか左に行くかを考えてしまうことがあります。
でも、
そこがクリアになれば一歩近づけると思っています。
そういう意味では、
毎日成長できている実感がありますし、
常にチャンスがあると感じながらプレーしています。
— 海外の選手は失敗を恐れないとおっしゃっていましたが、やはり「外したらどうしよう」といった考えが浮かぶことはありますか。
古橋選手
ありますね。
シュートを外した時に、
「パスできたかな」と考えてしまうこともあります。
ただ、フォワードとしては、
そういう考えは持たない方がいいとも思っています。
外しても、次に打って決めればいい。
決めれば認められるし、評価もされる。
その差だと思います。
だから、いい意味でリスペクトするというか、
謙虚になりすぎる必要はないのかなと思っています。
日本人は謙虚で賢いというイメージがありますが、
海外の選手はそこではないと思います。
決めるか決めないか。
ボールを取るか取らないか。
運ぶか運ばないか。
本当にシンプルなところで勝負している。
その一瞬一瞬を、
もっと強く持てたらいいなと思っています。
— 学生時代などは、ミスをしたら「ごめん」と声を掛け合うことも多かったと思いますが、プロの世界ではどうですか。
古橋選手
声はかけますが、
「外しちゃった」と言って
すぐに切り替える選手が多いですね。
「ごめん、ごめん」という感じではなく、
かなり軽い。
言葉としては言うけど、
引きずらない。
海外では、手を上げたり、
聞こえないくらいに「ソーリー」と
言っていることはあると思いますが、
ほとんど聞こえないですね。
— 他にも、日本人と違うと感じる点はありますか。
古橋選手
自分の意思が強いところですね。
「これをやる」と決めたらやるし、
やり抜く力も強い。
「打つ」と決めたら打つし、
何を言われてもシュートを打ちにいく。
そういう一貫した強さは感じます。
— 海外でプレーする上で、生活面も大きな変化があると思います。食事などについては、日本のものをそのまま持っていく選手もいると聞きますが、古橋選手はいかがですか。
古橋選手
現地で買えるものは現地で買っていますし、
日本食が欲しい時はロンドンの日本食スーパーに行ったり、
オンラインで注文したりして揃えています。
今は昔と比べて、
いろんな食材が手に入る時代なので、
大きな不便はなく、ありがたい環境だと思います。
チームのシェフも
自分たちに合った食事を用意してくれますし、
とても助かっています。
— サッカーは他のスポーツと比べても海外移籍が多い印象がありますが、世界に出やすい環境が整っているのでしょうか。
古橋選手
昔と比べると、
日本人選手の評価が上がってきているのは
大きいと思います。
先輩たちが海外で結果を残し、
いい印象を作ってくれたおかげで、
出やすくなっている部分はあると思います。
実際に海外で活躍する日本人選手も増えてきていますし、
その影響は大きいと感じます。
— お話を伺っていると、常に「誰かへの感謝」が根底にあるように感じます。
古橋選手
感謝は、持ち続けるべきものだと思っています。
それは多分、
永遠のテーマだと思います。
— 日本人は、実は6人に1人しかパスポートを持っていないとも言われています。海外に出る人と出ない人の違いはどこにあると感じますか。
古橋選手
海外で生活していて日本に帰ると、
「本当にいい国だな」と感じます。
安全で、ご飯も美味しくて、言葉も通じる。
安心して過ごせる国だと思います。
ただ一方で、
勇気を出して海外に出てみると、
また違った楽しさがあるとも感じました。
旅行でも、ワーキングホリデーでも、ビジネスでも、
いろんな形があると思います。
海外にはいろんな人種や価値観の人がいて、
見ているだけでも面白いし、
話すことで新しい発見もあります。
話すのが苦手な人もいると思いますが、
少し勇気を出して一歩踏み出す。
その一歩で、
これまで見えていた景色が広がり、
より素晴らしいものになる。
だからこそ、
勇気を出して一歩踏み出してほしいと思います。
— 「見えていた景色が変わる」というのは、どのような感覚なのでしょうか。
古橋選手
僕の場合は、
日本でプロとしてプレーしていて、
海外の選手とも関わりはありました。
でも実際に夢であった海外に出てみると、
これまで経験したことのないチームと試合ができたり、
いろんな国の選手とコミュニケーションを取る中で、
新しい発見がたくさんあった。
「こういう人たちは、こういう考え方をするんだ」
と知ることができたし、
知らなかったことを自分で体験して知ることができた。
そういう意味で、
海外に出てよかったと感じています。
だからこそ、
できるだけ長く海外でプレーしたいと思っています。
いつか日本に戻る時が来るかもしれませんが、
それまではもがきながら、
自分らしく頑張っていきたい。
少しでも何か伝わるものがあれば嬉しいです。

古橋亨梧 選手 プロフィール
サッカー日本代表フォワード。
国内リーグでの活躍を経て、ヴィッセル神戸に加入。
その後、海外移籍を果たし、スコットランドでのプレーを経験。
現在はイングランド・バーミンガム・シティFCに所属し、世界の舞台でプレーを続けている。
海外での経験を通じて、判断の速さや決断力、失敗を前提に進むメンタリティなど、日本との価値観の違いを実感。
また、競争の中に身を置きながらも、歴史や周囲への感謝を大切にする姿勢を持ち続けている。
「迷うよりも一歩踏み出す」ことを体現しながら、自分らしい挑戦を続けている。