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【高畑将之×IIA】インタビュー前半 「安全」を手放した瞬間、子どもは伸びる

「安全であること」が、
いつの間にか前提になった時代。

私たちは、 危険を避けることを
無意識のうちに選択しながら、
生き方を組み立てているのかもしれません。

今回お話を伺ったのは、 リバーサップという、
極めて自然と近いフィールドで活動する
高畑将之さん。

アドベンチャーレースやラフティング、
アウトリガーカヌーなど、常に「自然のリスク」と
隣り合わせの世界で生きてきました。

高畑さんの言葉は、
スポーツの話にとどまらず、
子育てや教育、そして社会の在り方そのものに、
静かに問いを投げかけてきます。

このインタビューで語られているのは、
「どうすれば安全か」という答えではありません。

・なぜ「安全」を前提にすると、学びが止まるのか
・なぜ自己責任は、冷たい考え方ではないのか
・なぜ大人が教えすぎると、子どもの可能性は狭まるのか

高畑さんが語る「安全」とは、
守られるものではなく、考え、工夫し、
経験を重ねる中で 獲得していくもの。

子どもを信じるとは何か。
失敗を許すとはどういうことか。

この対話は、
「子どものため」と思ってきた価値観を、
一度立ち止まって見直すきっかけになるはずです。

高畑 将之 さん

リバーSUP分野の第一人者。
Eco-Challenge日本人初完走者。
世界の極限フィールドで挑戦を重ね、
現在は東京・御岳でRiver Base Halauを運営。
自然と向き合いながら、
「安全」と「自己責任」の本質を問い続けている。

「安全」を手放した瞬間、子どもは伸びる

 

— 本日は、リバーサップという分野の第一人者である高畑将之さんにお越しいただきました。 よろしくお願いいたします。

 

高畑将之さん
よろしくお願いします。

 

— 高畑さんは現在、リバーガイドとして活動されていますが、これまで自然を舞台にしたさまざまなスポーツに取り組んでこられました。 もともとは、どのような競技から始められたのでしょうか。

 

高畑将之さん
実は、最初にやっていたスポーツはテニスでした。

思春期をアメリカで過ごしていたので、
いろいろなスポーツに触れられる環境があったんです。

育ったのは自然豊かなシアトルで、スキーをはじめ、
アウトドアスポーツには日常的に親しんでいました。

その流れの中で、
アドベンチャーレースに出会いました。

アドベンチャーレースは、
複数のアウトドア種目を組み合わせて、
チームで500kmから1000km先の
ゴールを目指すレースです。

 

— かなり過酷な競技という印象があります。

 

高畑将之さん
そうですね。

開催地は、世界の秘境中の秘境
人がほとんど入らないような場所が選ばれます。

地形が比較的なだらかで
移動しやすい場合は距離が長くなり、
パタゴニアのように自然環境が厳しい場所だと
距離は短くなりますが、それでも350kmほどあります。

期間はおおよそ1週間から2週間。
寝る間も惜しんで、ひたすらゴールを目指します。

 

— 山や川を越えながら、何百キロも人力で進むということですよね。

 

高畑将之さん
はい。

チームは必ず男女混成で、
誰か一人でも脱落すると、その時点で失格になります。

移動手段は人力のみですが、
風や川の流れといった
自然の力を利用することはできます。

 

— 自然との戦い、というより「自然と共にある」という表現のほうが近いでしょうか。

 

高畑将之さん
そうですね。

映像だけを見ると、 厳しい環境で
過酷なことをしているように 映るかもしれません。

でも実際には、そこにある素晴らしい大自然を、
自分たちにとって一番いい方法で楽しむ

旅をそのままレースという形にした、
そんなイメージに近いです。

 

— その後も、競技の幅を広げていかれたんですよね。

 

高畑将之さん
はい。

アドベンチャーレースの中で、
山のパートが自分のウィークポイント
だと感じていました。

そこで山に強い人に指導をお願いし、
エベレスト周辺での清掃登山にも参加しました。

山の環境に身を置きながら、
少しでも弱点を克服しようと考えたんです。

ただ、やっていくうちに
ウィークポイントは、
簡単にはストロングポイントにはならない

ということも実感しました。

それならば、無理に弱点を伸ばすより、
アドベンチャーレースの中で
自分が得意だった分野に軸足を移そう、と。

そこで選んだのが、水の分野でした。

まず取り組んだのが、ラフティングです。

ボートに乗って激流を下る競技で、
世界大会で結果も出しました。

その後は、
ハワイのアウトリガーカヌーにも挑戦しました。

島から島へ、海峡を渡る競技で、
5メートルほどのうねりを越えながら進む、
かなり厳しい環境でした。

そうした経験の延長線上にあるのが、
今取り組んでいる「リバーサップ」です。

大きなサップボードの上に立ってパドルを漕ぎ、
急流を下っていくスポーツです。

 

— 高畑さんは、日本とアメリカ、両方の文化を行き来する中で育ってこられました。 その経験から感じる違いは、どんなところにありますか。

 

高畑将之さん
日本では、アウトドア活動は
危ない行為
として捉えられがちで、
学校でも「危ない場所には行かない」「川には近づかない」
と教えられることが多いですよね。

それでも以前は、子ども同士の中で、
年長者から自然との付き合い方を学び、
経験を通して身につけていく文化がありました。

一方、アメリカでは、
子どもが何かに興味を持ったとき、
「どうすればそこに入っていけるか」
大人が一緒に考えてくれる。

禁止から入るのではなく、
実現するための方法を探す

そこに意識が向いている。

この違いが、
日本とアメリカの一番大きな差だと感じています。

 

— 子どもの安全を守るという目的は同じでも、アプローチはまったく違う、ということですね。

 

高畑将之さん
そうですね。

日本では「安全であるべき」という
考え方がとても強いと感じています。

たとえば、僕たちが行っている川下りの活動でも、
どれだけ安全かを説明しないと、
なかなか受け入れてもらえません。

一方でアメリカでは、
安全は「用意されるもの」ではなく、
リスクマネジメントの結果として自分たちで得るもの

という考え方があります。

どう考え、
どう行動すれば安全に近づけるのか。

そのプロセス自体を教えてくれるし、
一緒に探っていく

そこが、
日本との大きな違いだと感じています。

 

— 日本では、最近の熊の出没が話題です。「この状況はおかしい」「リスクはないものにしたい」と考えられがちだと思うのですが、海外ではそもそも捉え方が違うのでしょうか。

 

高畑将之さん
そうですね。

北米、特にカナダなどでは、
グリズリーをはじめとした熊が
「いて当たり前」という世界。

そこに入っていきます。

だからこそ、
生きて、無事に帰ってくるために、
どう行動すればいいか
を考える。

たとえば、食料はすべて木に吊るす。
就寝前には、焚き火の煙の匂いをしっかり体につける。

「どうやったらリスクをゼロにできるか」ではなく、
「どうやったらリスクをなるべく減らせるか」
その方向に思考が向くんです。

自然の中には、
もともと熊を含めた野生動物が生息しています。

それでも動物たちは生きようとする。
だから里に降りてくる。

それ自体は、
すごく自然なことなんですよね。

だからこちら側も、
一方的に排除しようとするのではなく、
どうすればリスクを排除できるかを考える

その方向に知恵を使ったほうが、
自然なんじゃないかなと思います。

 

— リスクがある前提で、どう距離を取るかを考える、ということですね。その考え方は、実際の現場ではどう表れているんでしょうか。

 

高畑将之さん
実際、川のツアーをしていると、
「熊は大丈夫なんですか?」と聞かれることがあります。

そのとき、僕は
「います」と答えます。

ただし、熊が里に降りてくる時間帯を避ける。
こちらからできる限り存在を知らせる。

そうした対策は最大限行います。

それでも、
本当に運が悪ければ遭遇してしまうこともある。

だからこそ、
どうやったらそういう状況を起こさずに済むのか

そこに知恵を働かせることが、
「生きる」ということなんだと思います。

「安全」を前提にするのではなく、
どうやったら安全や安心を手に入れられるかを考える。

 

— 日本は安全で丁寧な社会だと評価される一方で、海外の「自己責任」の考え方は冷たく見られることもあります。その点については、どう考えていますか。

 

高畑将之さん
今、子どもたちと接する中で、
強く感じていることがあります。

それは、
「自分で自分の道を決めてほしい」
ということです。

自分の道を自分で決めると、
行動も自分で選ぶことになる。

そうすると、
その行動に対する責任が自然とついてくる。

その意味で、
自己責任という感覚は特別なものではなく、
本来は当たり前に意識されるもの

なんじゃないかと思っています。

自己責任が当たり前にある社会になると、
「安全でなければいけない」という
考え方自体が変わってくる
と思うんです。

 

— 完全な安全は、正直、無理ですよね。自然の脅威は、いつでも私たちのすぐそばにあります。

 

高畑将之さん
はい。

だからこそ、その脅威に対して、
どう考えれば無事でいられるか

そこに、学びや工夫、発展が生まれてくる。

「安全」をベースにしてしまうと、
そのための捉え方ができなくなって、
失敗もできなくなる

「これは安全です」と決めるがゆえに、
失敗しないように、怪我をしないように、
大人が先回りして導いてしまう。

結果として、
「どうすれば失敗させないか」という方向に、
思考が向いてしまうんです。

でも、自己責任がデフォルトにあると、
起きたことに対して
「どう対応すれば無事でいられるか」
という方向に、知恵が向く。

その積み重ねが、
今の文明をつくってきたんじゃないかと思っています。

だから、これから先の社会を考えるときも、
「安全」を優先するより、
自己責任をベースにしたほうが、
結果的にポジティブな方向に進む
んじゃないかな、
と感じています。

 

— 親としては、つい先回りしてしまう気持ちもあります。でも、おっしゃる通り、失敗や工夫がない限り、未来もないですよね。

 

高畑将之さん
本当に、そこなんですよね。

子どもと接するようになって、
僕自身が学んだことがあります。

それは、僕たちがこれまで経験してきた
リスクへの対処をそのまま教えてしまうと、
子どもたちの選択肢を奪ってしまう
ということです。

僕たちが想像もしなかった方法で、
リスクを乗り越えるかも
しれない。

実際、そういう場面は何度もありました。

たとえば、川を下るとき。

大人は、下流に向かって前を向いて進む、
という前提で考えがちです。

でも、何も教えずに子どもを川に出すと、
後ろ向きのままでも、流れに乗って進んでいくことがある。

むしろ、後ろ向き前提で下っていったりする。

子どもたちは、
こちらの想像を超えた答えを出してくる

だから、こちらの経験を教える、というより、
「何かあったら、なんとかするから」という
スタンスで、やりたいようにやってもらう。

ただし、命に関わる部分だけは大人が引き受ける。

想定外の事態に対応できる力を、
大人自身が高めていく

それが、僕たちの役割なんだと思います。

僕らの経験を教えることが役割なのではなく、
これから子どもたちと一緒に経験する中で、
一緒に学んでいく。

「こうした方がいいよ」「それは危ないから」

そう言ってしまうと、
その経験自体がなくなってしまうと思います。

 

— 子どもを信頼できないときって、「何かあったら自分が必ず対処できる」という自分自身への信頼が足りていないからなのかもしれない、と感じました。

 

高畑将之さん
そう思います。

僕たち大人自身がもっと学ばなきゃいけないし、
もっと経験して失敗していかないといけない。

失敗していないと、
想定外の状況には対応できません。

だからこそ、
大人の側にも「失敗を恐れない姿勢」
すごく必要になってくると思っています。

子どもには
「失敗を恐れないでほしい」と思いがちですけど、
一番大事なのは実はこっち側なんですよね。

僕たち自身が、失敗を恐れずにいること

 

— 子どもたちにもそういった姿勢をお見せになるのですか。

 

高畑将之さん
基本的には、
一緒にフィールドに入って活動しています。

子どもたちが「これがしたい」と
自分の意思で動き始めたら、そこからは見守る。

でも、動き出すまでは、
自分が興味を持ったことをとにかくやってみせる

「これをやるためのHowtoはこれだよ」という説明は、
なるべくしないようにしています。

それよりも、自分自身がワクワクしていること

「これ楽しそうだな」「今はこれをやりたいな」
そういう直感を大切にして接しています。

 

— 親がどんな場面でもそうした姿勢でいられれば、子どもは自然と学んでいく、ということですね。

 

高畑将之さん
そうですね。

実際、そう受け取ってくださっている親御さんと、
同じコミュニティで今は活動させてもらっています。

「何かを教わる場」というより、
一緒に時間を過ごす場だと理解してくださっている。

その信頼関係があるからこそ、
子どもたちも、無理なく、
自分で学んでいくんだと思います。

 

— 高畑さんの考え方は、どこで培われたものなのでしょうか。

 

高畑将之さん
思春期をアメリカで過ごす中で、
アドベンチャーレースやエキストリームスポーツを通して
出会った人たちの影響が大きいですね。

ハワイには、人が乗れないような大きな波に挑む
ビッグウェーブというサーファーがいます。

そういった人たちは、3歳までに、
ある程度のリスクを伴う経験を重ねています。

その結果、親世代にはできなかったことでも、
ステージがあがってできるようになる。

それを可能にしているのは、
親が自分たちのキャパシティを広げて、
子どもに蓋をしないこと

体験を通して、子どものポテンシャルは
どんどん引き上げられていくんだと思います。

 

— これから世界へ出ていこうとする若い人たち、そしてそれを見守る私たち親世代や大人は、どんな準備をしておくといいでしょうか。

 

高畑将之さん
特に海外で活動する上で大切なのは、
「自分が何をしたいのか」を
自分の言葉で明確に言えること
だと思います。

言い換えると、自分の目的地を、
自分でしっかり持っているか
どうか。

そこが一番求められるところだと感じています。

僕は小学校6年生まで日本で育ちましたが、
当時の日本の教育の印象としては、
テストには正解があって、
その正解をどれだけ知っているかで評価される、
という感覚が強くありました。

でも、日本を一歩出た途端、
アメリカやヨーロッパでは、「何が正解か」よりも、
「あなたは何がやりたいのか」をまず問われるんですよね。

それがはっきりしていれば、自然と、
そこにプラスになるようなサポートが集まってくる

だからこそ、幼少期から
「何が正解か」ではなく、「何をしたいのか」を
周りの大人が一緒に問いながら探していく

そういう関わり方ができていれば、
その先の道は自然とついてくるのではないかと思います。

 

— 目的を持たずに「とにかく行ってみる」という選択もあると思います。ただ、私自身の話になりますが、娘がアメリカの大学に通っていて、目的が明確でない状態だと、本人がかなり苦しむ場面もありました。

 

高畑将之さん
そうですね。

海外に出たいと考える人の多くは、
何かしらの目的を持っていると思いますが、
それが明確であればあるほど、
その先の世界は広がっていく

これは間違いないと思います。

日本でも、保育園くらいまでは、
子どもが「何をしたいか」を大切にしてくれる
と感じています。

ただ、小学校に入る頃から、
「これが正解です」という枠から外れると、
立場が弱くなったり、生きづらさを感じやすくなる。

だからこそ周りの大人が、
「これが正解だ」と言われていることであっても、
「自分はこう思う」と言える子がいたら、
その思いを尊重してあげる

そういう関わり方をしていくことで、
その子の考えはきちんと残っていく
のではないかと思います。

 

— 高畑さんは、日本人が海外に出ることで、どんなものを得られると思いますか。

 

高畑将之さん
一番大きいのは、
日本人としてのアイデンティティだと思います。

自分が日本人であるということ。

そして、今目指していることの
出発点が、どこにあるのか

「自分はどこから来たのか」
「なぜそこへ行きたいのか」

そういったことが、
日本を出たほうが、より明確になる。

僕自身、アメリカに渡って最初の3年ほどは、
アメリカ人と同じになりたい、と思っていました。

でも、結局アメリカ人にはなれない。

その中で、日本人として何を大切にしたいのか
を強く意識するようになりました。

世界にはいろいろな国があり、いろいろな人種がいて、
それぞれが違うものを持っています。

その中で、
日本人として国際社会で何かをする以上、
日本人としての視点や価値観は
必ず役割として含まれてくる。

だからこそ、
「日本人として、何を大切にしたいのか」
そこがとても重要なんだと思います。

 

— 人間としての軸を持つことが、人を強くするのですね。

 

高畑将之さん
そうですね。

目的地がどこか、ということと同じくらい、
自分がどこに軸足を置いているのか
どことつながっているのか。

そこが定まっていることが、
とても大切だと思います。

 

— 最後に、これから世界へ出ていく日本の若い世代へ、メッセージをお願いします。

 

高畑将之さん
とにかく、
自分の直感を信じてほしいですね。

いろいろな困難に直面することもあると思いますし、
頭で考えすぎると、
なかなか前に進めなくなることもあります。

そんなときこそ、
自分を信じて、自分の直感を信じて
諦めずに一歩ずつ前へ進んでいってほしいと思います。

 

高畑将之さん プロフィール

宮崎県日南市生まれ。小学校6年時に父親の仕事で渡米し、高校2年までワシントン州シアトルで過ごす。
大学時代に世界屈指の過酷さで知られる冒険レース「Eco-Challenge」に衝撃を受けトレーニングを開始。
1999年、Eco-Challengeパタゴニア大会に出場し、日本人初完走を果たす。
その後、アドベンチャーレース・プロチームEASTWINDに所属し世界各地の大会に出場。
ヒマラヤでの清掃登山、ラフティング世界大会準優勝、アウトリガーカヌー「Molokai Hoe」出場、SUP国際大会優勝など、ジャンルを越えて世界のフィールドで挑戦を続ける。
現在は東京都青梅市御岳にて「River Base Halau」を運営。
リバーSUPの第一人者として、自身の豊富な経験をもとに、自然と対話するフィールド体験を提供している。